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山下獣医師が考える犬の去勢や避妊手術について!

こんにちは!

獣医師の山下です。

今日はワンちゃんと一緒に暮らしていれば必ず一度は直面する「去勢や避妊手術って実際した方がいいの??」という疑問について,獣医師としてどう考えているかをお話できればと思います。

このお話が少しでも飼い主様と動物たちのためになれば幸いです。

少し長くなりますが、最後までお付き合い下さい。

男の子について

男の子には生殖器として,『精巣』があります。

『去勢手術』は、この精巣を摘出する手術です。

そもそも去勢手術をする目的は次の様なことが考えられます。

発情によるストレスからの開放

 本来,動物達は性成熟(繁殖が可能な年齢になること)すると、繁殖活動を行うようになります。

『繁殖』は動物たちにとって多くの時間を費やす行動になりますが、繁殖行動を示す相手がいなければ、飼い主に対して腰を振ったり、女の子を探し徘徊することもあります。

将来予想される生殖器関連の疾患の発症予防

 生殖器の疾患は、中年齢~高齢で発生してきます。

以下に挙げるような疾患が生殖器関連の疾患として考えられますが、これらの疾患は、去勢手術によって予防する事ができると考えられてます。

① 精巣腫瘍・・・特に、精巣が正常な位置にない子は発症のリスクが高くなります。

② 肛門周囲腺腫・・・肛門周囲にできる良性腫瘍ですが、大きくなると,うんちが出にくくなったり、表面がジュクジュクして不衛生になったりすることがあります。

③ 会陰ヘルニア・・・会陰部(肛門の脇)の筋肉が薄くなり、その隙間から腸や膀胱が外側に脱出してくる疾患で、ダックスフントやコーギーなどが好発犬種になります。

この手術は何度か経験あるのですが、動物にとってはとても痛い手術になります。

そして,手術時間も2時間前後と、とても体に負担がかかる手術なので、正直あまりしたくない手術です。

女の子について

女の子には生殖器として、『卵巣』『子宮』『乳腺』があります。

『避妊手術』はこのうち、卵巣を摘出することで発情させない手術です。

方法は、卵巣だけ摘出する『卵巣摘出術』と、卵巣と子宮を摘出する『子宮卵巣摘出術』の二種類があり、将来予想される生殖器疾患の発症の予防になります。

女の子の生殖器疾患で考えられる疾患

① 子宮蓄膿症・・・子宮の中に膿がたまる疾患。

膿が体外に排泄されるタイプであれば、陰部から排膿が見られるので、早期に気付くことができます。

しかし、膿が体外に排泄されないタイプの場合は、早期発見が難しく、多くの場合はかなり状態が悪くなってから来院するケースが多い様に思えます。

また、子宮蓄膿症は一般的には外科手術が必要になりますが、高齢になって発症することが多いため、その時点で手術のリスクは高く手術を悩まれる飼い主様も多いです。

そうなると、どんどん手術のリスクは高くなり、結果として手術しなければならなくなったときには腹膜炎が進行し手遅れの場合もありました。

② 乳腺腫瘍・・・お乳にしこりができます。

犬の場合は、約6割の子は良性腫瘍と言われています。

しかし、乳腺腫瘍は同時多発的にできるため、結局大きく乳腺組織を切除する必要があります。

すると、皮膚が大きく欠損してしまうので、痛みが強く出たりします。

また、足りなくなった皮膚を引っ張って縫い合わせたりすることがあるため、気になって舐めたりすることで傷口に感染を起こしてしまったりすることもあります。

去勢•避妊手術のリスクについて

もちろん去勢手術や避妊手術は絶対安全な手術ではありませんし、全身麻酔が必要になるので、元気な子に麻酔をかけて痛い思いをさせたくないという気持ちも分からなくはありません。

また近年では、欧米の方で去勢や避妊の有無による腫瘍発生リスクの評価をした論文が発表されています。

しかし、私が獣医師として何年も動物病院で勤務し、また夜間救急診療にも携わり、多くの飼い主様や上記のような病気になってしまった動物を診ていくなかで思うことがあります。

個人的に思うのは、『予防できる病気があるなら予防的な手術も治療の1つになるな』と言うことです。

これらの生殖器関連の疾患は多くは、中年齢~高齢で発生します。

すると、手術自体が体にとって負担になるのはもちろんのこと、病気の動物にかける全身麻酔は元気な子にかける全身麻酔より何倍も負担になります。

獣医師としては、ハイリスクな子に実施する全身麻酔は相当気を遣います。

もちろん、どんな動物にも同じように気を遣っていくのですが、それ以上にハイリスクな子の場合は、手術の前から点滴をして臓器を守ったり、術中も手術に集中しながらモニター(心電図や呼吸や体温など)にも集中し、さらに術後は細やかなバイタルチェックを実施します。

若く元気な子では、麻酔の覚醒も早く、術後30分から1時間も経過すれば入院室の中で立って尻尾を振ってくれたりする子も多く見られます。

獣医師ができるだけ早い時期に去勢・避妊手術を勧めるのは病気のこと以外に、こういう理由もあります。

獣医師としての想い

診察の中で5〜6歳くらいになった手術をしていない子(特に女の子)の飼い主様に『避妊手術はしないのですか?』と尋ねると…『もう遅いので・・・手術はしません』ということをよく耳にします。

『いえいえ遅くないです!!』

確かに、いろいろな書籍やブログなどを見ると『1歳頃まで(初回発情が起こる前)にしましょう!』と書かれています。

これは初回発情を迎える(初めての発情出血)前に避妊手術をすることで『乳腺腫瘍の発生』の予防効果が約9割の子でありますという意味です。

発情をしてしまってからでは、予防効果は低くなり将来、乳腺腫瘍ができる可能性が出てきます。

『じゃあ発情してしまってからでは手術しても遅いからできないなぁ・・・』

『いえいえ遅くないです!!』

乳腺の腫瘍は皮膚の腫瘍です。

定期検診やご自宅での身体検査により、すごく小さなうちから発見することが可能ですので、見つけたら切除すれば良いのです。

しかし、お腹の中の子宮や卵巣は外からでは分からないので、異常があっても早期発見が難しいばかりか病気は急性発症(突然体調を崩す)しますので、気付いたときには遅かったりします。

だから、1歳を過ぎたから手術が『できない』のではないことを知っておいてい下さい。

近年では、より安全な全身麻酔法の確立や少しでも体に負担の少ない手術のために多くの獣医師が日々知識のアップデートや技術を磨いています。

腹腔鏡下子宮卵巣摘出術もその1つです!

お腹に小さな傷ができますが,大きくお腹を開かないので体の負担が少なく,術後の回復も早い手術です。

【腹腔鏡手術の様子】

【腹腔鏡手術の傷口(ネコ)】

山下獣医師からのメッセージ

突然ですが…私は動物が好きです。

だから、この子達にはずっと元気で幸せな生活を送って欲しいと思っています。

若齢で行う去勢や避妊手術は、ワクチン接種やフィラリア予防と同じような「予防獣医学」に分類されます。

ワクチン接種やフィラリア予防もワクチンアレルギーなどがあったりと絶対安全ではないですが、リスクに対してそこから得られるメリットが大きいので実施します。

去勢手術や避妊手術も同じです。

手術を実施することで起こるリスク(デメリット)と、将来起こりうる疾患のリスクについても一緒に考えて後悔しない選択をしていただければ、もの言えぬ動物たちにとっても最善の選択が出来ることがあるかもしれません。

もしも、手術に関して不安に感じていることがあったり、悩まれている方がおられましたら、ぜひかかりつけの先生に聞いてみて下さい。

長くなってしまってスミマセン…。

私の話が、少しでも飼い主様と動物たちのお役に立てれば嬉しく思います。

獣医師 山下陽平

 

山下先生!

貴重なお話を、ありがとうございました。

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  • この記事を書いた人

にこまる

《13歳トイプードルの女の子 にこまる》/水晶摘出•左目失明•右目視力無し/乳腺腫瘍摘出/遺伝性網膜萎縮•アトピー性皮膚炎/気管虚脱/パテラグレード2から1に!

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